バリア人間

バリア人間~序章~

バリア解決編

何も触れない

何も触れない、一体どうしたんだろう?

朝起きると、俺の身体が変な事に気付いた。

スマホを取ろうとしたら、何故か取れない。

というか触る事が出来ない。

何故触れない、何回やっても触れない、なんなんだ?

ちょっと考えてみた。

もしかして、俺死んだのか?

幽霊になっているから、触れないのか?

でも昨日の夜は、普通に仕事から帰ってきて、風呂入って、飯食って寝ただけ、特に何も変わった事は無かった。

寝てる間に何かあって、死んでしまったのか?

そんなわけがない。

胸に手を当てると心臓の振動が伝わる、やはり俺は生きている。

じゃあなんでスマホに触れないのか?

ん?布団にも触れない、ベッドには腰かけてるから、ベッドには触れているのか?

いや、違う。

ベッドにも触れていない、ちょっとだけ浮いているような感じだ。

おしりの感覚がベッドを認識していない。

触れてない!!

何だこれは???

これでは起きた時に必ずやる、シーツと布団の直しが出来ない。

ぐちゃぐちゃになった布団とシーツは耐えられない、早く直したい!

そんな事言ってる場合ではない。

この状況をどうすればいいのか、少し落ち着いて考えなければ。

ん?待てよ?これは俺だけじゃなく、世界中で何かが起こって全ての人間がこうなってるのかも。

カーテンを開けて外を見たいが、触れないので開けられない。

すると、音が聞こえてきた。

ブーン・・・、ブーン。

これは車の音?車は普通に走っているようだ。

「おはようございます」

「おはよう」

外ではご近所同士で、普通に朝の挨拶がされていた。

周りは何も起きてないようだ。

やはりこれは俺だけだ。

この事を誰かに伝えて、助けて欲しいがどうすれいいのか・・・。

何も触れる事が出来ないから、スマホから電話したくても出来ない。

外に出たいがドアも開けられない。

アレクサ

あっ、そうだ!ここはアレクサに聞いてみよう。

「アレクサ、何も触れないんだけどどうすればいい?」

「すみません、よく分かりませんでした」

だよな、こんな時に何を聞いているんだろう、俺は。

あっ!声は聞こえるのか!

何人か同じ症状がいて、何かニュースになってるかも。

アレクサでニュースを聞いてみよう!

「アレクサ、ニュース」

「はい、NHKでニュースを流します」

5分ぐらい聞いたが、それらしいニュースは無かった。

よし、次はアレクサを使ってテレビを点けてみよう、何か情報が得られるかもしれない。

最近声で操作できるように色々と設定しておいたのがよかった。

「アレクサ、テレビを点けて!」

「はい、テレビを点けました」

たまたまNHKだったが、そんな都合よくそういった話題は全くやっていない。

しばらくそのまま点けておけば、何か分かるかもしれないから、つけっぱなしにしておこう。

うーん、アレクサで他に何か出来ないかな。

そうだ!アレクサで電話出来ないか?

よーく考えたら、エコー同志の通話は出来るが、スマホに登録してある番号には出来ないな、ダメか。

起きてからすでに1時間が経っている。

なんか疲れたなーと思い、少し気が緩んだところへ・・・。

トイレに行きたい

急にトイレに行きたくなってきた。

普通ならドアを開けて便座に座り、用を足せばいいだけなんだが、それが出来ない!!

ちなみに俺は、小でも座ってやるタイプで、済んだ後も先っちょをトイレットペーパーで拭くんだが、この事は誰にも話したことない。

そんなことはどうでもいい、そうまずドアが開けられないのだ。

仮にドアが開いていたとして、便座に座って放出したとしよう。

果たして尿は便器に到達するんだろうか?

尿はどうなるんだ?どこに行くんだ?

そう考えると出せない、けど限界が近づいている。

やるしかない!!

私はその時、ジョルノジョバーナの様に頑固たる決意を固めた。

よし、トイレのドアが開けられないとしたら、風呂、洗面台、流し台がいいかもしれない。

何かの容器があればいいんだが、見当たらない。

まず風呂だが、何かあったとしても処理がしやすそうなので一番いいんだが、そもそもドアが開けられないから無理。

残すは洗面台か流し台。

流し台は食器など洗い物をするから、ここは抵抗がある。

洗面台なら、歯磨きとかするし、流し台よりはいいだろう。

という事で洗面台に決定した。

いざ、洗面台へ!

洗面台へ向かうんだが、歩いている足の感じが少し気持ち悪い。

床に接触していないため、例えると無重力を普通に歩くという感覚。

少し慣れが必要だなと思う。

洗面台の前に到着したが、ちょっとした問題が起こった!

高さがあるため、あれが届かない。

少し背伸びすれば、何とか届きそうだ。

届いた!よし!イケる!やるぞ!!

「ピンポーン」

宅急便

え?

このタイミングでピンポン?

誰だ?

「宅急便でーす」

宅急便だと?

どうする、どうすればいい、ドアを開ける事が出来ないから、荷物は受け取れない。

しかしチャンスだ!この状況を伝えて何とかしてもらえないか相談する事が可能だ。

とりあえず今は、トイレのドアを開けてもらうのが先決だ。

しかし頼めない理由がある。

実は今まで黙っていたが、俺の姿は裸なのである。

何故、裸?と言われても、裸が好きだからとしか答えようがない。

普段から家の中では裸で過ごし、裸で寝ている、世間でいう裸族なのだ。

さすがにこの姿を見られては、何かお願いしたとしても、荷物を置いてさっさと逃げられるだろう。

まぁ、色々考えるが、結局は玄関には鍵がかかっているので、外からも内からも開けられない。

うーん、居留守を使うしかないかな?

いや、今は「置き配」というのがある、そうしよう。

「すいません、今は出られないので、置き配でお願いします」

「はい、いいんですが、このお荷物「PS5」ですが、ホントによろしいですか?」

ナニ?

この間メルカリで転売ヤローから仕方無く8万も出して買った「PS5」かー。

それはまずいな、誰かに取られたら大変だ。

それにしてもこのドライバー、なんで中身が「PS5」と分かるんだ?

「すいません、なんで荷物が「PS5」だと分かるんですか?」

「PS5の箱にプチプチしてあるだけで、丸見えなんです。」

何だとー、転売ヤローめ、適当な梱包しやがって、とんでもねー奴だな。

でもしょうがない、置き配にしてもらって、何とかしてドアを開けよう。

「大丈夫です、少ししたら回収しますから」

「分かりました、では置いていきます、ありがとうございました。」

玄関のドアスコープから見ていたが、帰り際のドライバーさんの顔が少し嫌な感じに見えたのが気になった。

PS5の行方

その嫌な感じは直ぐに的中した。

そのドライバーは直ぐに引き返してきて、PS5を狙っているのが分かる。

何故分かるのかというと、ここのマンションのドアスコープは広範囲を見れるようになっているのだ。

かなりゆっくり、ゆっくり音を立てずに歩いてくる。

やばい、かなりやばい、盗られる、盗られてしまう。

何とかしなければ、しかし何も出来ない。

ドアノブでもガチャガチャやれば効果的だが、それが出来ない。

あっ!しゃべればいいんだ。

「あ、俺、PS5が届いたんだ、今から家に来ない?」

適当に電話をしてるふりをして、少し大きめの声でしゃべっていたら、逃げるように帰っていきました。

よかった、ひとまず安心だが、これではずーっと見てなくてはいけない。

ここで忘れていた尿意が再び襲ってきた!

よし洗面台へ行こうとしたその時、

コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツと歩く音がした。

その音は何故か、俺の玄関前で止まった。

再びコツ、コツ、コツ、コツと歩きだしたので、PS5は大丈夫かと心配になり、ドアスコープを覗くと、PS5は無事だった。

でもなんか気になる、少し様子を見てみよう。

今度は小さくコツコツと聞こえる。

今度は女だ!

サングラスとマスクをしていて、顔は全く分からない。

さっきの宅配便のドライバーと同じ、ゆっくりゆっくり近づいてきている。

確実にPS5を狙っている、どんだけみんな欲しがってるんだ。

しかも壁に背中をくっつけて、まるでジョジョ4部の岸部露伴がメインの話に出てきた、背中を見せない男のようだ。

これはさっきよりも手ごわそうだ。

さっきの作戦で行ってみる、「あ、俺、PS5が届いたんだ、今から家に来ない?」

どうだ!これで逃げるはず。

うん?全く動じない、来てる、来てる。

ついに玄関ドアの前まで来た、PS5に手が届く。

女 「ちょっと!何してるんですか?」

ん?誰だ?

サツキ

あっ、妹のサツキだ!

なんていいタイミングで来るんだろう、さすがわが妹。

謎の女 「別に何もしてないよー」

と言って、背中を見せずに去っていきました。

なんだこの女、かなり変な奴、でももしかしたら、本物のスタンド使いかもしれない。

妹のおかげでPS5は無事だった、ホントに良かった。

「サツキか?どうした?」

「どうしたじゃないよ?なんでこんなところにPS5置いてんのよ?」

「こんなところ置いてたら、誰かに持ってかれるよ!」

「そうなんだけど、色々と事情があって仕方なくそこにおいてもらったんだ」

「何よ事情って?ていうか中に入れてよ!なんでドア越しでしゃべってんのよ!」

「それが、開けられないんだよ」

「なんで?何?なんなのよ!」

「お前カギ持ってるだろ、早く開けてくれ!」

サツキは面倒見がよく、不定期だが部屋の片づけや掃除をしてもらっている。

今日、たまたま来る日だったんだろう。

「何なのよー、持ってるけど意味が分からない、じゃあ開けるよ?」

結局素直な妹だったが、大事な事を思い出した!

そういえば俺、裸だった。

俺が裸族だという事は妹も知らない。

こんな事になるんなら、裸で寝なければよかった。

「ちょっと待て!俺が開けていいって言ってから入れよ、いいな!」

「は?いいよめんどくさい、もう開ける!」

「おい!まだこっちの準備が・・・・、ちょっと待て!」

キョロキョロと隠れる場所を探す。

おっ!これだ!

ガチャ!キィーー!ドアが開いた。

「あれ?お兄ちゃん、なに?どうしたの?」

パソコンデスクの椅子に座って後ろ向きなっている俺、これで裸は見られない。

たまたま椅子がこの向きになっていたので助かった。

「はい、PS5!うん?ちょっと!こっち向いてよ!」

「おおー、テーブルの上に置いといてくれ!」

「ホント何?なんか様子が変だけど、なんかあったの?」

「うん、ちょっとな!それよりも頼みがあるんだけど、トイレのドア開けてくんない?」

「は?何言ってんの?自分で開ければいいでしょ!わけわかんない!」

「それが、自分では開けられない理由があるんだよ。」

「え?開けられない理由?え?どういう事?」

と言って近づいてくるサツキ。

「おいおい、こっち来んな!あーーーーーーー。」

急いで股間を隠す俺。

「え?何?なんで裸なの?変態じゃん!裸だから来るなって言ってたのね!」

ん?妹の反応が思っていたよりもかなり薄い、なんでだ?

「それよりトイレのドアを開けろってどういうこと?」

「とにかくとりあえず、ドアを開けてくれ!そのあとゆっくり訳を話す、頼む!」

真剣な俺の顔を見たサツキは、

「うん!分かった!そのあとゆっくり事情を聞かせてね!さぁ!開けるよ!」

トイレへ挑戦

やっとトイレのドアが開いた、俺は急いでトイレに入って、便座に座った。

何故かじっと見つめる妹。

「ん?おい!ドア閉めてくれよ!」

「もー、じゃあ、閉めろって言ってよ!」

バタン!

いよいよ放射になる、かなり不安だが、便座に座ったら一気に尿意が込み上げてきた。

もう我慢できない!

自分の意志ではもう抑えられない、ついについに放射された。

かい、かん!

薬師丸ひろ子のセーラー服と機関銃が頭をよぎった。

あれ、意外!普通にできるぞ!

機動戦士ガンダムのアムロのセリフ、「こいつ動くぞ!」みたいな感じで思ってしまった。

良かったー、これで一つ解決できた・・・と思ったら、すぐに次の問題が・・・。

それは・・・、流せない、流すためのレバーに触れないから流せない。

更に先っちょを拭くためのトイレットペーパーも取れない。

どちらも出来ない、さて、どうする?

どうするも何も、サツキに頼むしかないだろう。

流す事はやってくれるだろうが、トイレットペーパーは取ってもらっても触れないからどうにもならない。

先っちょを拭くのはあきらめよう。

うん?ちょっと待てよ?トイレットペーパーと言えば、便の時はどうなるんだ?

尿は出せたから便も出せるとは思うが、そのあと尻の穴を拭くのをどうすればいいんだ?

ウォッシュレットが出たとしても、尻の穴に届くかどうかは分からない。

そもそもボタンに触れないから無理だな。

尻の穴が汚れない便を出すしかない。

変なところに納得する俺だったが、この時重大な事に全く気付いていなかった。

サツキへ説明

「サツキ!終わったから、ドアを開けてくれ!」

「うん、わかった」

ドアを開けるサツキ。

「それで、ちょっと悪いんだけど、トイレ流してくれない?」

「はぁ?なんで私がそんなことまでしなくちゃなんないの?自分でやればいいでしょ!」

「自分でできればやっている、どうしてもできない理由があるんだ!」

少し嫌な顔をしたサツキは、

「ちょっと、おしっこ臭いから、一回出てきてよ!」

「そんなに臭くないよ、お前の香水の匂いの方が結構きついよ」

と言いながらトイレから出た。

「何なのよ!出来ない理由ってなに?」

股間を隠しながら、真剣に説明を始めようとする俺。

「サツキ、口で説明しても理解出来ないと思うから、まず始めに俺の手を触ってみてくれ。」

左手を差し出す俺。

「ヤダよ!トイレ終わって手を洗ってないでしょ!洗ってきてよ!」

「いやそうなんだが、今は洗えないんだよ、じゃあ、どこなら触れる?」

「もうー、しいて言えば腕かな?」

「よし、触ってみてくれ!」

俺の腕にサツキの手が触れようとする。

「え?ナニコレ?触れない!なんで?どうして?え?え?」

と言いながら、体中いろんなところを触ろうとするが、どこにも触れない。

何度も何度も試してみるが、結果は同じ、どうしても触れない。

「どうしてだろう?とても不思議、これはすごいわ!」

少しテンションが上がっているサツキだったが、次第に真剣な顔になり考えこんでしまった。

「お兄ちゃん、そういう事だったのね、理解しがたいけど理由は何となくわかったわ。」

「分かってくれるか?そうなんだ、俺は何処にも触れない体になってしまったんだ!」

「いえ、ちょっとその表現は違うわ!」

「え?何が違うんだ?」

「何処にも触れない体ではなく、お兄ちゃん自身に触れない体なのよ!」

「は?よくわかんないよ」

「つまり、分かりやすく言うと、お兄ちゃんの身体の周りには、バリアが張ってあるのよ!」

「バリア?」

バリア

「そう、何か見えない膜が覆っていて、そのせいで何も触れないんだわ!」

なんだそれ、俺の身体にバリア?

バリアがあるから、何も触れないという事か。

確かにバリアと考えれば、今までの事は納得がいく。

でも、普通そんなことがありえるのか?

もしかして、寝てる間にドクターゲロに手術されて、人造人間17号になってしまったのか?

それとも、知らない間にバリバリの実を食べて、バルトロメオのようにバリア人間になってしまったのか?

それともマトリックスみたいに、仮想世界に来てしまったのか?

マンガや映画なら分かるが、これは現実世界だ。

そんなことはあるわけがない!

しかし、現実に俺の身体はこうなっている、非現実的な事が起きているのは確かだ。

それにしても、サツキの分析力はすごいな。

サツキがいなかったら、この考えにはならなかったかもしれないし、ここに到達するまでかなり時間がかかったかも。

しかし、こんな不便なバリアは漫画でも小説でも、見た事も聞いた事が無い。

普通は自分の身を守るために、自分の意志で出るもんだと思うが、自分の意志ではなく、常にバリアが出てる状態だから、何かするにしても何も出来ない。

「サツキ、このバリアを解く方法は無いのか?」

「今、それを考えてるんだけど何も思いつかないから、この状態でどうすべきかを考えている」

サツキは、俺より真剣に考えてくれてる感じだ。

グゥーーーーーーー!、結構大きな音で、俺のお腹が鳴った。

俺は瞬間的におなかを触った。

この時も実は重大な事が起きていたのだ。

バリアを破るには?

もう昼になる、起きてから食べてないし、腹が減るのは当たり前だが、腹が鳴るまで気付かなかった。

「何か食べたいが、食べる方法が分からない、何かいい方法が無いか?」

「そうね、トイレは普通に出来たんでしょ?だったら、液体はイケるんじゃない?」

なるほど、確かにそれはイケそうだ。

「じゃあ、ちょっと実験してみよう!仰向けに寝て口を開けて!口に水を流してみるから」

コップに入った水を口元に近づけて、流してみた。

ダラダラダラダラ、床に水がこぼれる、失敗だ。

「もしかしたら勢いが必要なのかな?」と言って、高い位置から水を落としてみる。

バシャバシャバシャ、はじかれる水、失敗だ。

「もっと勢いが必要かも!次は水鉄砲を使ってみよう!」

「ちょっと待て!そもそもリビングでやるのはおかしいだろ?風呂場に移ろう!」

「そっか、確かに」

場所を選ばず、思い立ったら直ぐに行動に移すのは、妹の良い所でもあり、悪い所でもある。

二人で風呂場に移った。

今度は仰向けになる必要が無いので、立ったままで試してみる。

もちろん股間は両手で隠してある。

目を閉じて、口を開ける。

水鉄砲を構えて、俺の口に照準を合わせる妹、距離的には1mぐらいか.

「いくよ!お兄ちゃん!3、2、1、はっしゃー!」

水は見事なまでにはじいている、全く俺の口には届かない。

「どう?、少しでも届いてない?」

「全くだ」

「じゃあ、徐々に距離を縮めていくよ」

水鉄砲を打ちながら、俺に近づいてくる妹、水の勢いは強くなっている。

30cm、15cm、10cm、5cm、1cm。

ここまで近づいてもダメだった。

「お兄ちゃん、ダメ?」

「ああ、届いてないよ」

目の前まで来ていた水が飲めないと分かると、余計に飲みたくなってくる。

「ダメか、今度はバケツで一気に水を掛けてみるよ!」

妹は切り替えが早い、既に次の手段を考えている。

「よし、行くよ!」

バシャー!!!

全く濡れてない俺。

「うーん、ダメみたいだね、液体は通るかもと思ったんだけど・・・、残念」

結構期待はしていたんだが、出来ないと分かると愕然としてしまった。

もう俺は、何も口にすることが出来ないんだろうか?

このまま餓死してしまうんだろうか?

絶望感に打ちひしがれていた俺に、妹はそばにあった固形石鹸を手に取った。

「おい、何をする気だ?まさか?」

ソフトボールのピッチャーだった妹は、既に投球モーションに入っている。

「馬鹿なまねはよせ!それがもし当たったら相当痛いんじゃないか?」

妹は俺の言葉に聞く耳を持たず、石鹸を下手から投げる!

「フン!」

俺に石鹸が向かってくる。

「うわー!!」

トン!ボタ!

石鹸が俺にあたらず床に落ちる。

ホッ、バリアが俺を守ってくれた、今度ばかりはバリアがあってよかった。

「おい!いきなりなにすんだよ!もし当たってたらめちゃくちゃ痛いだろ!」

「その方がいいじゃん!バリアを通す手段が分かるんだから!」

ハッ!確かにその通りだ、妹のいう事は正論でしかない。

「でも、これでもダメなんだね、次は何をしようかな?」

色々と考えてくれるのはうれしいが、何となく遊ばれているような感覚になってきた。

サツキの狂気

「液体がダメで、固形物もダメだったんだけど、何か先がとがった物とかどうかな?例えば針とかつまようじとか、あとカッターとか包丁みたいな薄くて切れる物とかいいかもしんない」

「うん、そうだな、針は無いから、爪楊枝でやってみよう!」

「痛かったら、イタイって言ってね!」

まずは手の甲に爪楊枝で刺してみるが、全く感じない。

「うん?ダメみたい、でもなんか変な感触、もう少し押し付けるような感じで、強めに刺してみるよ!」

「よし!来い!」

ぐぐぐっぐぐぐぐぐっぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ!

「ダメなんだけど、ほら!見て!爪楊枝の先!」

何ともなっていない、サツキは何を言ってるんだ?

「分からないの?爪楊枝の先に何もダメージが無いの!あんなに強く押し付けたのに!」

確かに、その通りだ!言われないと気付かなかったかも。

「何となくイメージ的には、丈夫な柔らかい壁で、どんなに押し付けてもその物にはダメージが無い、ドラゴンボールの魔人ブウとか北斗の拳のハート様みたいな感じかな?」

なるほど、マンガや映画で見たバリアとは別物と考えた方がいいな。

「次は包丁で試すけど爪楊枝と同じような感じで行くから」

「うん」

返事はしたが、かなり不安である。

同じく手の甲に刺してみる。

ググぐぐぐぐぐぐぐぐっ!

「全然刺さらない!さっきと同じだわ!」

やはりダメだった、なんかもう何やっても無駄の様に思えてきた。

「え?」

サツキが包丁を振り上げている、まさか勢いをつけて振り下ろす気なのか?

「サツキ!どうした?そのまま刺すつもりじゃないだろうな?」

「そう、勢いをつければ包丁ならイケそうな気がする。」

「やぁー!!」

「やめろー!!!」

ドスっ!

そばにあった石鹸に突き刺さった。

「なんで避けるのよ!」

「当たり前だろ!かなり危険すぎるよ、万が一刺さって大変な事になったら、どうやって治療するんだよ?」

「あっ、そうだね、確かに」

今自分で言っていて恐ろしくなってきた。

ケガや病気になった時、薬も飲めないし病院にも行けない。

これは一刻も早く何らかの解決策を見出さなければ、生死にかかわる大変な問題である。

とは言ったものの、このバリアは思ったよりもかなり強力だ。

現時点では、どんな物にも耐えられるような気がする。

ピストルの弾も平気かもしれないし、ベジータのビッグバンアタックも大丈夫そうだ。

ここはバリアを破るという考えから、解除する方法を考えた方が無難かもしれない。

では、どうすれば解除できるのか?

ポッキー

「サツキ、ちょっと視点を変えてみないか?」

「私も思っていたんだけど、バリアを解く方法よね?」

おっ!さすが、やはり考えていたんだな。

「でもその前に確認したいんだけど、おしっこした時はいつも通り出来たのよね?」

「うん」

「という事は、おしっこの出た箇所はバリアが解かれていたことにならない?」

「確かにその通りだ」

「つまり、おしっこをした時を狙って、その箇所に何か通せないかしら?」

「え?その発想は無かったな」

「細い通り道だから、ポッキーとかいいかもね!」

「なるほど・・・、じゃなくて、ポッキーがおしっこまみれになるじゃないか?」

「それは、ラップでもすればいいんじゃない?」

「あっ、そうか・・・・・、でもそれ誰がやるんだ?現時点ではお前しかいないぞ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

サツキは想像しているようだ、絶対無理みたいな顔をしている。

「えーと、おしっこの通り道に内側からお兄ちゃんの手が通らないかしら・・・・・、やっぱりそれは無理ね!手でおしっこをブロックしてしまうもんね・・・・。」

黙り込んでしまったサツキだったが、直ぐに何か思いついたようだ。

「バリアが体全体にあると考えると、お兄ちゃんの声はこっちに聞こえないと思うんだけど聞こえている、これなんか不思議じゃない?」

「確かに、薄いバリアなのかな?」

「いくら薄くてもバリアなんだから通常よりは聞こえにくくなると思うの、お兄ちゃんは普段よりも大きい声を出してるわけじゃないでしょ?」

「うん、普通に話している」

「それに呼吸も普通にしてるでしょ?」

「うん、してる」

本当だ!何故この事に今まで気付かなかったんだろう?

「このバリアは綿のような感じかもしれない、繊維が絡み合うから爪楊枝が刺さらない、爪楊枝にダメージもなかったのもそのせいかも」

徐々にこのバリアの性質が分かって来た、ちょっと整理すると・・・。

マンガや映画のバリアだと、前面に自身の大きさぐらいの透明な壁があって、敵の攻撃を防ぐといった感じなのだが、俺の場合は体のラインなりにバリアがある。

イメージ的には、透明で通気性の良い着ぐるみを着ている感じかな。

必要な時に出せるバリアなら便利だと思うが、自分の意志とは関係なく、常に出ているバリアは不便でしかない。

少し考えている間に、サツキは何かを作っている。

「ジャーン!ポッキー通し棒!」

2mの突っ張り棒の先にクリップが付いていて、その先にラップで巻いたポッキーが挟んである。

何とも手作り感満載で、こんな事を考えていたとは、恐れ入る妹だ。

「これでイケると思う!私は覚悟を決めた!やるわ!!」

「やるのはいいけど、俺のアソコをガン見する事になるだろう、お前出来るのか?・・・・って言うか、俺が嫌だわ!」

「だからそれも承知で覚悟を決めたの!私に任せて!」

妹に見られながらおしっこをする・・・、なんだこれは?こんな恥ずかしい事があっていいのか?こんないい歳をして、アソコ以外の裸はみられて、最終的にはアソコを見られて、しかもおしっこをしている所まで見られて、しかもしかも、アソコにポッキーがやってくる。

全く意味が分からない。

しかし、サツキの覚悟は相当なものだ、もう嫌とは言えない雰囲気だ。

俺も覚悟を決めよう!

「分かった、次に尿意が来たら頼む!」

「じゃあ、リハーサルが必要よ、ぶっつけ本番じゃあ失敗する恐れがあるから、まずアソコを出して、尿をしてる感じにしてちょうだい!」

「え?」

「私も好きでやる訳じゃないのよ、お兄ちゃんのためにやるんだからね!」

「ちょっ!ちょっと待て!それはもう少し待て!お前の気持ちはものすごくありがたいが、今はまずバリアを解除する方法を考えよう!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

生理現象

「そうね、解除する方法が解れば、こんなことしなくていいからね!分かったわ!」

よしよし、なんか納得してくれた。

「じゃあ、これまでにバリアに関してなんか変わったことなかった?」

「うーん、特に無いような気がするけど、うーん、うーん、うーん」

「私が気になっているというか、なんでこんな事を今まで考えなかったのか、トイレで尿だけがバリアを通ったこと。」

「うん?なに?」

「もしかしたら、尿をしているとき、尿の通り道だけでなく全身のバリアが解かれていたんじゃない?」

「え?え?え?まさか?あっ!そういえば尿をしたとき、お尻が便座に触れていたような気がするようなしてないような。」

「だとしたら、今度おしっこした時、ウォシュレットを使ってみて!便座に反応しないとシャワーは出ないはずだから。」

「確かに・・・、やってみる!」

「他にも考えてみよう、おしっこは生理現象のくくりになると思うから、その辺りで考えてみるのもいいかもしれない」

「例えば、せき、くしゃみとかあくび、げっぷでしょ!他には、お腹が鳴るとかおならとか、うーんとあとは、汗をかくとか・・・、睡眠もそうじゃない!」

「この中だったら、汗をかくのがイケそうだけど、お兄ちゃん汗出ないからなぁ」

「そうなんだよなー」

「うん?」

「サツキ!なんか急に気になることができたんだ!」

「風呂に入ってみたい!」

「お風呂に入ったって、バリアがあるんだから意味ないじゃん!」

「そうなんだけど、バリアが綿のようだとしたら、風呂に入ったら段々しみ込んでくるんじゃないか?」

「うーん、そうかもしれないけど、だからと言ってそれが何なの?」

「さっきは水で試したけど、お湯に入って時間をかければ、バリアが解かれるかもしれない!」

「それはあるかもしれない、分かった!とにかくやってみよう!!」

サツキは早速お風呂にお湯を溜めた。

「よし!入るぞ!

「あれ?」

よくよく考えると、お風呂に入れるわけがない、水ですら通さないのだから。

お湯の上に体育座りしている状態になってしまった。

「くくくくくくくく(笑)」サツキが笑っている。

「すごいね、お兄ちゃん!バリアの解除方法さえわかれば、何か色々なことに役立ちそうだよ!」

「でも、その絵、なかなかだよ、フフフフフフフフフ」

サツキは笑いながら、スマホで写真を撮っている。

「ほんとすごいね!水の上を歩けるという事だもんね!」

その通り、水の上を歩けるという事は、人命救助が可能ではないか?

仮にプールで誰か溺れたとする。

そこに俺が水の上を歩いて助けに行く。

しかし、バリアの解除方法が分からなければ、触る事も出来ないから助けるのは不可能。

つ、ついに

そんなことを考えていたら、なんか知らないけど鼻がムズムズしてきて、

「ハ、ハ、ハクション!!」

勢いよく頭を前方に振りかざす。

くしゃみが出たとたん、それと同時にお湯の中に

ドッボーン!

「え?何が起こった?ウッ!苦しい、息ができない」

俺はパニックになっていた。

この小さな浴槽が逆に俺の動きを封じていた。

なぜこの体勢なのかわからないが、頭が底にある。

くしゃみの反動で半回転したような感じだ!どんな勢いのくしゃみなんだ。

そんなことはどうでもいい、早くお湯の中から出なければ死んでしまう。

しかし、浴槽にはまって身動きが取れない!

いつもはこんなことはないのに、今に限ってなぜ!!

その時、体が反転した!

サツキが気づいて、俺の体を起こしてくれたのだ。

「プハー!!」

やっと出れた、やっと息ができた。

と同時にバリアが発動し、またお湯の上に乗った。

「ゲホッ!ゲホッ!あー、苦しかった」

「何してるの?どういう事?なんでお湯に入ったの?」

サツキは興奮状態で、手を握りながら俺に問いかけてくる。

「わからない、いや、くしゃみをしたらお湯に入ったんだ!」

「くしゃみ?」

「やっぱりそうだわ!生理現象でバリアは解かれるのよ!!」

「くしゃみがきっかけというのはわかるけど、くしゃみは一瞬、そのあともお湯に入っている間はバリアが戻らなかったのはなんでだ?」

「お湯から出たとたん、バリアが戻ってしまった、くしゃみだけではないような気がする」

「うーん、くしゃみをしたことによって、一定時間バリアが解除されたというのはどう?」

「それだと、トイレが終わった後も解除されていることになるから、トイレットペーパーは触れたはず、その時は触れなかった」

「確かに、だとするともう一つスイッチがあったと言うことになるわ、なにかない?」

「ところでさ、お前俺の手を握ってるよな?」

「今の俺は、お湯の上にいる、だからバリアが発生している、なのにお前は俺の手を握っている、どういうこと?」

「あれ?なんで?私もバリアの中にいるの?」

そばにあるシャワーヘッドを握ろうとする。

「取れない!触れない!なにも触れないわ!!私もバリア人間になったの???」

「いや、多分、俺の手を握ってるからじゃないの?」

「じゃあ、手を離せばバリアの外に出れられるのかな?」

そう言うとサツキは手を離して、シャワーヘッドに触れてみる

「あっ!触れる!取れる!さっきは触れなかったのに、なんか不思議!」

サツキはかなり興奮している。

「バリア解除状態で何かを手にしてから、バリアが発生してもバリア内に取り込めるのね!という事は食べ物もいけるわ!」

だが、解除方法がまだ見つかっていない。

「話を戻そう、あと考えられるのは、お湯の中で何があったのか?」

「うーん、うーん、うーん・・・・・・・、あっ!」

「息が出来なかった!!もしかしたら、息を止めればバリアが解除されるかも!」

「それだわ!!」

息を止めてみる。

ドッボーン!!

「おおー!やったー!!」

バシャー!

うっかり声を出してしまったため、またお湯の上に戻ってしまった。

「やったね、お兄ちゃん!息を止めればバリアが解除されるのがやっとわかったわ!」

「よし、これで服が着れて裸にならずに済むし、何か食べれるよ」

やっと、やっとバリア解除にこぎつけた。

でもこれから、こんな体で生きていかなければならないかと思うと、只々不安でしかない。

まだまだこのバリアについて分からない事がいっぱいあるだろう。

しかし、この身体になった事に何か意味があるはず。

それが何なのかまだ分からないが、きっと俺にとって重要な事に違いないと信じよう。

無職の俺にとって・・・。

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